こんなこと言うの、
カッコ悪いって自覚はあるんれす。
柿ピーに言ったら大袈裟だ、って馬鹿にされて
本人に言ったらそうですか、ってやんわりかわされて


だけど だけど


オレのいた地獄をぶち壊して
オレの居場所をくれた


骸さんはオレの『特別』なんれす。











【Altissimo】










ボンゴレのボスに骸さんがやられてしまったあの日。
夢にまで見た、自由で明るく温かい生活はいとも簡単
に。音をたてて崩れてしまった。
首にはまた、あの冷たくて固い金属の枷が。手と足も
まとめられて冷えきった鎖に繋がれる。
骸さんに、ホントの犬みたいですね、って撫でられる
のは大好きだったけど
こんな扱い、嬉しくもなんともない。
黒服の男たちに引きずられ、オレたちはまた薄暗い牢
獄に逆もどり。
いや、前よりもっとひどいかも
前は普通に扉のついた檻で、柿ピーとも一緒だったの
に。戻るなりぶちこまれた所は縦に長い独房。真っ暗
な上に、膝抱えて座るともういっぱいになってしまう
ようなスペースに一人ぼっちにされてしまった。
痛いのもやだけど、ずっとずっと、三人でいたから、
誰とも話せないのがなにより悲しかった。

骸さん
柿ピーも、どこにいるんれすか

最後に見たのは日本で、鎖に繋がれた時。
黒いマントにくるまれて、意識がなくなって
目が覚めた時にはもうここにいて
ふと、とんでもなく恐ろしい想像が浮かんで、慌てて
振りはらった。ここじゃ、ありえなくないことだけど、
そんなわけがないと思いたかった。
だって 骸さんは、オレの




『では、今回の脱獄の主犯、六道骸とはお前のことなの
だな』




ぴくり、
どこか遠いところで喋った誰かの声の『六道骸』という
名前を耳が拾いあげた。あのめちゃくちゃな実験のせい
か、オレの耳はチャンネル無しでも常人の数倍の音を拾
える。
うるせーから、余計なことしやがってって思ってたのに。
慌てて同じ方向に向けて全神経を研ぎ澄ませる。



『ええ、今更隠しても仕方ありませんしね』



いた。
落ち着いてる綺麗な声。
けん、って呼んで撫でてくれる優しい笑顔がパッと浮か
び上がって胸の苦しいのが一気になくなった。
あぁ、よかった。
オレの予測がダメダメで。



『お前もエストラーネロファミリーで実験体を?』

『城島犬、柿本千種両名と顔を合わせたのもそこでか?』




一時はどうなるかと思ったけど
骸さんが生きてるなら柿ピーも多分大丈夫。
また、全員ぶっ殺して
三人で逃げ出して…



『城島?柿本?…あぁ、あの東洋人ふたりのことですか』





心臓が、変な風に跳ねた。
あれ?
む、むくろさん?
今のってオレの聞き間違えれすか?

長い爪で傷付けないように気をつけて耳を掃除してみる。
って言っても、つい最近その骸さんにキレイにしてもらっ
たばっかだったから汚れてるはずなんかないんだけど。



『とぼけるな、お前の部下だろう』

『部下…というよりはコマですかね。それなりに使えたか
ら重宝はしてました』



とは言ってもほとんど憑依して動かしてましたけど。
クフフって普段よりも押さえたボリューム。呆れた時の笑
いかた。けど、今はそれよりも心臓が痛くてうるさい。


何を言ってるのれすか骸さん
憑依したのなんかボンゴレの時の一回だけだったじゃない
れすか。
並中のボスにやられたあの時だけで、後はほとんどオレら
に命令して、任せてくれたじゃないれすか。



『城島犬に柿本千種……そう言えばそんな名前でしたか』



気が付けば蹲るしか出来ない小さな空間で傷だらけの体を
精一杯声のする方に寄せていた。
分厚い壁に阻まれたずっと遠くで同じように閉じ込められ
ているであろう、あの人。感じられるのは声と、音として
の息遣い。
でもただそれだけ

あんなに近くにいたのに
今はこんなに遠くて、骸さんが何をしようとしてるのか気
付いてもそれを止めるのも出来ない


── 一緒に来ますか?

むくろさん

──けん、ですね。犬と書いて、けん

むくろ さん

──犬、ダメですよ。ちゃんと始末しておかないと、また捕
まってしまいます

むく ろ さ ん

──犬のおかげで思ったよりも早く片付きました。ご苦労さ
まです

壁を掻きむしってた爪が嫌な音を立てて弾ける。
ちくり、と小さく痛んだ指先からどろりと血があふれ出し、
その音に気をそらす間もなく骸さんの声が重なって



『例の事件以来、僕を信用してましたから、契約をするのは
簡単でしたよ』



頬が、熱くなった。
血が溢れてんのは傷口なのに頬を流れた水ばかりがぼたぼたと
心を濡らしていく。真っ暗い世界はどんどん水で埋めつくされ
てオレを溺れさせていく。



「むくろ…さ…っ」



髪をなでてくれた手のひらが蘇る
名前を呼んでくれた声が蘇る
抱きしめてくれた腕
キスしてくれた口唇
ただ、もう元には戻ってこない
ここは、一番キタナイ世界だって何度も言われた。
ここで生きるのが一番大変なんです。
死ぬことは怖くないんです
ただもう二度とこうして会うことが出来なくなる、って



オレも
柿ピーも
繰り返し繰り返し

オレらはみんな地獄みたいな暗闇で出会った。
骸さんのいうようにこの世界は薄汚い。
だけど だけど
その地獄をぶち壊してオレに居場所をくれた
骸さんはオレにとって
大切なたった一人の『カミサマ』だったんだ。









※Altissimo

(altoの絶対最上級)
・非常に高い
・崇高な
・神の





End.




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