「証拠が欲しいならくれてやる」



脳髄を甘くとかすような響きのある声は潜められて、言葉の通り囁いた人
にだけ伝われば良かったに違いない。
薄い闇の中、闇を弾くように金色の髪が揺れ、オレの中でかっこいい人の
代名詞みたいなその人はオレの中のおっかない人の代名詞のような人の前
にかしづき、恭しく接吻ける。


あぁ、神様
もしもいるんだったら教えてください。

なんでいつもオレだけ
こんな場面に立ち会ってしまうのでしょうか。













お祝いをしてやるから、こいよ、と言われてお祝いといえば結婚式みたい
な感じしか思いつかなかったのはオレがアホだったからとかじゃない。
そう思う、むしろ思いたい。
って言うか日本の一般家庭で育ったオレの思考からは想像し難い範疇だ。



「よぉツナ、楽しんでるか?」



ドアの向こうはイタリアでした。
比喩じゃない。乗れって乗せられた車がそのまま飛行機に乗り込んで、飛
行機が着いた先がイタリアで。
お城だったぜという山本の言葉に違わず豪邸なディーノさんの自宅につれ
てこられた。ホームパーティー程度のささやかなものって言ってたけど家
がささやかじゃないから普通のパーティーより豪華だ。



「楽しむは楽しんでますけど一体どこから手をつければいいのやら…」

「ははっ、まぁそんな堅くなんなって。立食だし、いんのはオレの部下ぐ
れーだからマナーとか気にしなくていいぜ。オレだってたまになってねぇ
とか言われるぐらいだしな」



それはただ部下がいなかっただけではと言いかけてぐっと飲み込む。
同盟とか兄弟子とか色々あるだろうけど、そういうことを全部引っくるめ
たとしてもここまでしてくれるのは嬉しかった。
ピンとこないのは、まだオレが正式なボンゴレの跡継ぎに確定してしまっ
たことなんかを上手く理解出来ていない気がする。と言っても実際自分達
がマフィアの中核を担うって意味で喜べているのは多分獄寺くんだけだ。
山本はなんかノリで喜んでる上にマフィアが本物と認識してるか怪しいし、
お兄さんはイタリアに行くって分かったら今度はボクシングをイタリアの
国技にとか言いって燃え始めたし、ランボはやっぱりおバカだし、クロー
ムさんは何考えてるか分かんないのにたまにクフフって笑うし、ヒバリさ
んは…



「そういえばディーノさん、今日ヒバリさんに会いました?」

「お、恭弥連れてこれたか?やるなぁツナ。姿が見えないから来なかった
のかと思ったぜ」

「あの、それなんですけど…」



綺麗な瞳をきらきら輝かせて誉めちぎってくるこの人は服装も含めてとて
もマフィアには見えない。
師匠と弟子ってのは分かりますけどいくらなんでも食い付きすぎやしませ
んかと思いつつもお昼寝とか抱っことか色々見てるだけに突っ込まないで
おく。審議に対する興味と命の危機なら天秤にかける間でもない。
思う様暴れまくってすっきりしたろうなという周りの予測をそこまでかと
言わんばかりの自由さで裏切り、ヴァリアーとの一件の後、ヒバリさんの
機嫌は最低中の最低だった。
ただでさえ戦闘能力は三割増で今まで以上に被害者が増えたのにいきなり
殺気立つことがよくあり、意味も分からず半殺しにされた人は多い。
それだけにイタリアでのパーティーがオッケーだったことは驚いた。最初
は嫌だの一点張りだったのにディーノさんの名前が出た途端、あの艶っぽ
いような獲物を狙うような顔でへぇ、じゃあ行こうかな、と。
トンファー片手に…



「あー…やっぱ怒ってたか…」

「やっぱりって…ままままさかディーノさん…ッ心当たりあるんですか!?」

「いや、心あたりはねーけど、なんかここ最近ぜんぜん電話に出てくんねー
んだよな、恭弥のやつ」



最近電話に出てくれないってことは普段はきちんとでてくれるってことです
か?って、今ツッコむべくはそこじゃない。いや、わかってるけどツッコま
ずにはいられないだけだ。
オレだけじゃない、並盛中の在校生徒にとって(もしか卒業生も)ヒバリさん
を怒らせるということの恐ろしさはライオンの檻に入る恐ろしさに匹敵する。
むしろ今のヒバリさんならライオンの檻を選ぶ人のが多いかもしれない。
それを確信で怒らせるなんて、命が惜しくないとしか言いようがないだろう。



「恭弥、なんか言ってた?」

「なんか…?とりあえず咬み殺しすって呟いてたのは確かですけど」



やると言ったら絶対やる人だ。今こうして五体無事なわけだからとりあえず
ディーノさんがヒバリさんに適わないってことはないのだろう。
ヒバリさんはその状況をとても楽しんでたらしいけど、今のドス黒い空気を
考えたら現在進行で楽しんでるはずがない。
むしろこんなあっちに群れ、こっちに群れじゃ暴れてないのが不思議なくら
いだ。ディーノさんもそのことに気付いてるのかあー、とかうー、とか言い
ながらがしがし金色の髪を掻きまわしている。



「で、恭弥は?どこ?」

「それが乾杯の後から姿が…」

「馴らしたって聞いたと思えば、まだまだだな」



いつの間に来たのかシャンパングラス片手に現れた家庭教師の一言に修行中
にみたあれやこれが浮かんできたのを慌てて振り払った。
けど、まさかと思う原因がピンクの背景付きで浮かんでしまった時点でアウ
トに違いない。うるせーと拗ねた声でリボーンとやりとりするディーノさん
をオレはまともにみることが出来なくなってしまった。














パーティーが3日3晩続くわけじゃないにしても、海外だけに日帰りって訳
にはいかない。というかディーノさんも最初からそのつもりだったらしく、
好きな部屋選べよと気前よく言ってくれた。まさかと思ってたボンゴレ本拠
地初めてのお泊まりは杞憂に終わった。
多少部屋割りで揉めたけど(獄寺くんとバジルくんでオレの部屋の警護にど
ちらが入るか揉めたりクロームがオレのベッドで寝るって言ったり)最終的
にはひとりにひと部屋が割り当てられてイタリア初めての夜は静かに更けて
いく。
…はずだった



「ね、眠れない…」



枕が変わると眠れないなんて今まではなかった。けど、今なってしまってい
るのだからそんな事実はどうしようもない。もしかしたらふかふかでいい香
りのする高そうなベッドのせいかと、ふと思う。いつも使ってるのはデパー
トで2900円くらいで売ってる安いベッドカバーとスプリングのベッドだ。イ
タリア製と聞いただけで高いと感じるのは勝手な先入観だろうけど家に安物
なんてあるのか──多分ない。
気を使って貰えるのはとても嬉しいが分相応というか、一番小さな部屋で良
かったのにこの部屋は狙撃で狙われるだのベッドが100万程度の安物だの(円
がユーロより高くても安いってのはあり得ない値段じゃないの?)結局一番
良いゲストルームをあてがわれた。

水でも飲んで落ち着こうかとも思ったけどすぐに考え直す。イタリアの水が
不味いとかではなく、水が合わないって体調を崩すこともありますから水道
水は止めた方が良いですよってバジルくんが言ってた気がする。水でお腹下
すなんてちょっと信じられないけど、あり得なくはないかもしれない。
獄寺くんはビアンキを見ただけで体調崩すわけだし


「…って言うかトイレどこだろ」


来てからなんかホテルのトイレみたいな入り口のヤツしか見てないんですが。
探せばたくさんありそうだけど下手に動くと正直漏れる極限まで迷いまくり
そうな気がしてならない。
仕方なく、大広間の近くのトイレに行くことにして高そうなベッドから抜け
出した。














せっぱつまった状況じゃなかったのはせめてもの救いか。曲がっても曲がっ
てもどっちを曲がっても登場する曲がり角にもしかして家の中で遭難ーッ!?
って思い始めた頃。実に都合のいいタイミングでディーノさんに遭遇した。



「よう、どうしたツナ?散歩か?」

「あ、いやちょっとトイレ探して、迷っちゃったみたいで…」



そういうディーノさんはなんでこんなところに?とか聞きたいけどヒバリさ
んのところに行った帰りとか言われても困るから黙っておく。そんなわけな
いと否定するには疑惑はあまりに多い。
そんなオレの心情などツユ知らず、月を負かす勢いでキラキラオーラを発す
る兄貴分はあっけらかんとした態度を崩さない。



「トイレ?んなもん部屋にあっただろ?壊れてたか?」
「んな…ッ部屋にトイレ付いてるんですかーッ!!」



全部の部屋についてるのか、それともオレの部屋だからついてたのか。どっ
ちにしても信じられたもんじゃない。
ここはホテルかなんかですか!!?
って、ツッコむのが普段。というか普通のリアクションだと思う。それをし
なかったのは、超直感よりは動物的勘ってやつだろう。



「うるさい沢田綱吉」



後ろから絶対零度の存在を感じたのは。
動物的勘ついでにすべてが並以下のオレの並以上な本能か。ガチーンと固ま
ったまま動けなくなった。これってデジャヴ?
もうオイルの切れたみたいな音みたいな稼動音を立てながら後ろを見るとそ
の声の主、恐怖の主がいた。
仄暗い月明かりの下、頼りなく照らされる姿は今に消えてしまいそうなくせ
に半端ない殺気を放ち、広い廊下で異常なまでの存在感を持つ。周りを草食
動物というだけに、本当にこの人は肉食動物だ。



「恭弥」



だってのに、
この人の脳内構造は一体どうなってるのか。
まさかかわいい弟子がまたオイタくらいに思ってるとかじゃないですよね?
いや、それより先に窓際が絵になるな、とか思ってるとか
いや、いくらなんでもディーノさん。現実を見てください。
綺麗とか分かりますけど、確かに今の舌なめずりとかもなんかドキドキしま
すが…そんな甘い顔とはまったく似合わないくらい凶悪な顔してますよ、ヒ
バリさん!!ほら今だってトンファー取り出して…あ、ああああああッ!!!



「あぶねーな、こんな夜中まで手合わせか?」

「部下も連れずに僕の前に現れるなんて、いい度胸じゃない」

「オレの家だしな」



先につっかかってきたオレには目もくれず、トンファー片手に一直線殴りか
かってきたヒバリさんの攻撃を部下がいないなんて信じられない手際のよさ
で防ぎ、しのぎを削る。
やっぱりヒバリさんがあしらわれているように見えるのは気のせいじゃない
気がする。口調と表情を見ても余裕があるのはディーノさんだけだ。ぎりぎ
りとそれ以上の接触を拒むといわんばかりに張り巡らされた鞭にヒバリさん
は顔を歪める。イライラというか心底むかむかって感じだ。



「巣に戻って強気になってるの?ますます咬み殺したいね」

「おいおい、何殺気だってんだよ、なんかあったのか?」

「そんなの、自分の胸に聞いてみれば」



って、言うか痴話ゲンカ?
軽やかな音をたて戒めを抜けた武器は金色の髪を掠める。紙一重でよけるそ
の姿もやっぱり部下のいないとは(以下略)修行中はもうものすごい光景しか
見てなかったからなまじ信じられなかったけど師匠と弟子というのはやっぱ
り妄言じゃないみたいだ。
目で追いきれないほどの攻防にも関わらずクリーンヒットはひとつもない。
ヒバリさんの攻撃くらって平気だった人なんて見たことないけど、これだけ
綺麗によける人も見たことない。さすが、リボーンが師匠に指名したくらい
のことはあるっていうか



「そうカッカすんなって、当たるもんも当たんねぇぜ?」

「うるさい、僕に指図しないで」

「あいかわらず頑固なヤツ」



黒い塊が懐にもぐりこんだ瞬間、思わずその先の光景を想像して目を閉じそ
うになったけど、結局オレの思った光景は現れなかった。銀色の武器はその
綺麗に整った顔に叩き込まれることもなく、黒い鞭にぐるぐると巻きつかれ
ていた。何がどうなったのか、ディーノさんがため息と共にもう一度強く引
くとそれはヒバリさんの細い体と一緒にディーノさんの腕の中に納まった。



「離してよこの変態」

「このじゃじゃ馬は、師匠に向かって変態はねぇだろ」

「あなたみたいな人、師匠なんかにした覚えはない」

「ほんっと、口が減らねぇなお前は」



お見事、といいたいところだけど、なんでだろう
無性にいやらしい光景に見えるのは。なんだかクロームが相手の幻覚で触手
グルグル巻きにされて、獄寺くんや山本もいろいろ大変な目にあったとか言
ってたけど、今この場のヒバリさんもそうとう大変なことになってる気がす
る。
っていうか、ディーノさんがさわやかできらきらだからあんまり考えたこと
なかったけど、鞭ってなんか響きがいやらしい。っていうかもう青白い学生
シャツに鞭がまたいやらしいって言うか…ってオレ何考えてんのオォォォオ
オオオ!?



「ツナ、悪い…席はずしてもらえるか?」

「え?あ、ははははい!!!!!」



色々考えすぎて一瞬ディーノさんがなんて言ったか聞きそびれたけど、その
表情と腕の中のヒバリさんを見て先祖のくれた超直感が作動しました。
こういう時が一番早く走れると思う、とばかりに元来た道を戻る。
ただ、ここでオレはまだ知らない。
好奇心が身を滅ぼすなんて神話も
この先の後悔も






「で、何があったんだよ恭弥」



席を外せというディーノさんのいう通り、席は外した。その場にオレがいな
いほうが具合が良いのは事実だろうし、それは直感関係なくオレにも分かっ
た。
ただ、ヒバリさんとディーノさんの関係が気になるっていうか。どうせこの
先苦労するならどうなってるのかちゃんと見極めようと思っただけのことだ。

気配は多分消えてない。それでも二人に気付かれないのは二人がそれどころ
じゃないからだと思うけど。
それにしても改めてみるとやっぱりなんかいやらしい。



「別に」

「別にじゃねー、なんでもねぇヤツがなんでいきなりトンファーで殴りかか
ってくんだよ」

「言ったでしょ、僕はあなたをぐちゃぐちゃにすること以外、あなたに興味
なんかない」



腕の中で、密着って構図はそれなりに二人を「恋人」らしく見せる。
そりゃ、リボーンが勝手に言ってるだけで確たる証拠はないけど。イタリア
じゃキスだって挨拶って言ってたし。



「ほー、じゃ恭弥は興味ねぇ男にあんなことさせんのか?」



え、ちょっと待ってくださいディーノさん?
あんなこと?あんなことってどんなことですか?

いつの間にかディーノさんからは困ったようなあの笑顔が消えていた。怖い
くらいな真剣な表情で背中向きだったヒバリさんの体と顔を自分へと向かせ
る。縛られた箇所が擦れたのか、痛みに少し顔を歪めただけでまた精一杯に
ディーノさんを威嚇する。



「あなたがそれを言うの?────僕を抱いたのなんか暇つぶしだったくせ
に」



言ってるそばから爆弾発言来タ――――――ッ!!
しかも暇つぶしって…
大好きだった兄貴分に対してとんでもない暴露を聞いて思わずくぎ付けにな
る。
ヒバリさんもかなり本気入った殺気を膨らせている。
って言うかヒバリさん、風紀委員はそういう乱れは可なんですが?



「オレは暇つぶしなんかでお前を抱いた覚えはねぇよ」

「口だけは本当に達者だよね。愛してるとなんとかだって誰にでも言ってる
んじゃない?」

「恭弥ッ!!」



響いた怒声にひゃあと声を上がりそうになったのを咄嗟に押さえた。びっく
りだ。ディーノさんの怒ったところなんか見るのは初めてだった。
ヒバリさんもそうなんだろう。何とか装ってるものの驚いたような顔だった。
でもそこに沈んだものはなく、どちらかと言えばますます燃え上がった感じ
だ。
それこそ叱られたことなんかないのに、とばかりに

ぎりぎり、お互いに睨みあってしばらくはどちらも話さなかった。
空気は石のように重い。
素直に帰れば良かった、と後悔し始めた頃、ヒバリさんが呟く。



「来なかったくせに」

「…………」

「僕の番だったのに、あなたは来なかった」

「恭弥、」

「他のヤツの時は来たのに、僕の時ばっか」



ぽつり、ぽつり言葉を探すみたいに。
ディーノさんはともかく、オレにとってヒバリさんは怖いひとで、その認
識は今も変わらない。にも関わらず、その言葉はなんだかとても深くに解
けてきてしまってまたオレは動けなくなった。
オレでさえそうなんだからディーノさんへの影響力は計り知れない。
それまでしっかりとヒバリさんを抱きしめていた腕がだらりと行き場をな
くす。



「……来て欲しかったのか、恭弥は」

「………」

「ごめんな」



それでもやっとそれだけ絞りだしたディーノさんはうつ向いたまま答えな
いヒバリさんに恐る恐る手を伸ばして、恐る恐る白い頬に触れる。
そしてヒバリさんははねのける。その行動は当たり前なはずなのにとても
ヒバリさんらしくなかった。



「……部屋に帰る」

「拗ねんなよ恭弥、行けなかったのは謝る。謝るから、愛してないとかそ
んな寂しいこと言うな」

「……口先だけのひとは信用しない」

「なら───」



ぶわ、と
月の光を浴びて肩に引っかかっていた学ランが定位置であるはずの場所か
ら逃げた。トレードマークを置き去りに、尚も引き寄せられたヒバリさん
の身体はますますディーノさんとの距離を縮める。鞭に絡められるより激
しくもそれよりずっと甘く。長い腕に巻き込まれたヒバリさんが誰よりそ
れに気付いているに違いない。



「証拠が欲しいなら、くれてやる」



オレが極めて理性的に事の有り様を見ていられたのはここまでだった。
何が、と目を見開いた一瞬に口唇が触れて、離れて
次の瞬間にはマフィアのボスというにふさわしい烈しさ、そしてとんでも
なく工ロい眼差しをむき出しにしたディーノさんは目の前の薄い口唇に文
字通り食いついた。


ディ…ディーノさん何やってんのォォォオオオオッッッ!!!!!!!!!!?



「ちょーッ…んっ、ふぅ…ッん」



一瞬、何が起こったのかわからなかったに違いない。慌てて暴れようとし
たヒバリさんを力で押さえつけ、尚もディーノさんの口唇は強引にヒバリ
さんの口唇を貪る。金色の頭が小刻みに角度を変える度にぴちゃ、ぺちゃ
なんて音が聞こえるんですけどもしかして舌入っちゃってんですかソレーッ!!!!



「うぅ…ッア…ん」



それまでの修羅場真っ最中な空気から一転。ラブラブって言うか工ロ気ム
ンムン、大人の世界まっしぐらになってしまった眼前の光景にもうオレは
どうしたらいいのか。頬を真っ赤にしたヒバリさんが身体の間に腕を入れ
て必死に押し退けようともがいてるけど全く効果はなく。鼻にかかったよ
うな声がとんでもなく工ロい。
ディーノさんはディーノさんで右手は簡単に掴めてしまう黒い頭をしっか
り掴み、左手は細い腰をたどって足の付け根…いや、お尻?って言うかど
さくさでどこ触ってんですか!!



「ぁ…や…ッ、ちょっとどこを…」

「良いから、黙ってろ」

「ンッ」



しかもそれさするとかじゃなくて揉んでますよね!?景気よく揉んでます
よね!!?ヒバリさんのなんか堪えるって言うか眉を潜めた顔がもの凄い
アレですけど気付いてますかディーノさん!!それとも確信犯ですかディ
ーノさぁあん!!

何か言おうとして蓋をされた口唇からはまたひっきりなしに甘い声が漏れ
る。時々聞こえるどっちのか分からない息遣いも荒々しく、とんでもなく
卑猥だ。
って言うか動物的ーッ?ディーノさん本当に馬並なのーッ!!



「お前が初めてなんだよ、オレがマジで惚れたのは」



凄く格好いいディーノさんだからやっぱり告白なんかももう相手をとかし
ちゃうくらい甘いんですよ、ハルもツナさんに言われてみたいですーとか
勝手を言ってたハルの言葉を思い出す。
たしかにとんでもなく甘い声で囁く言葉はとんでもななく甘い。
ただそれ以上の色気をムンムンと飛ばすその声色はハルに工ロと言わしめ
るそれに違いない。

まぁ、ヒバリさんも含めて全体的に工ロなのは別にして



「…ずいぶん、陳腐な告白だね…」

「仕方ねぇだろ、ホントのことだし。恭弥の代わりになれるヤツなんか他
にいねぇんだよ。それに───」



すぅ、と金色の眼が細まったかと思うとそれまで散々貪ってた口唇でなく
、耳元に沈んで。黒い髪の合間から除く赤い耳に何かを囁いた。
本当にヒバリさんだけに向けられたものでオレには聞こえなかった。ただ
バカじゃないとヒバリさんが力ない拳を振るうようなことではあったみた
いだ。



「愛してるぜ、恭弥」

「うるさいよ」

「バカヤロー、こういう時は嘘でも僕もって言うもんなんだよ」

「じゃあ言ってあげるよ。あなたなんか大嫌いだ」



嘘だけど、と続いた言葉を最後まで聞かずにヒバリさんを抱き上げてキス
をしまくる兄貴分の後ろ姿はまさしく幸せいっぱいだった。
でもなんでだろう。そんな二人を見て激しく脱力するのは…


そういえば最近山本が頻繁にヒバリさんを工ロいと言っていたのはやっぱ
りディーノさんが関係してたんですねとぽつりと思う。
確かにそうだね山本、とへんな同調を覚えつつ、色んな意味でトイレ捜索
が必須になった下半身を抱えながらイチャイチャと闇の向こうに消えてい
く二人を見送った。


出来たらもう少し、周りが気付かないくらい上手にかくしてくださいとは
心のなかでひっそり言ってみることにした








おしまい☆







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