それは、いわゆる朝の香り。

カーテンの隙間から差し込んだ太陽の薄い光や寝る前には
気付かなかった枕の洗濯ノリ。
シャワー浴びた後なのに汗が香るのには多少苦笑もするけ
れど、この腕に愛する人を抱いて寝たならそれも仕方がな
い。
昨夜は特に激しかったから夢うつつの時、隣からすり抜け
た気配にちゃんと歩けてるかなんて心配までする始末。
久しぶりだったとはいえ、子供相手に抱き潰すまでなんて
たいがいオレも大人気のないもんだ。

朝、ヒバリが起きたら
抱きしめて、キスして、謝って
そして怒られるつもりだったのに

漂ってくる芳ばしい匂いに気付くとどうにも期待してしまう。
毎朝飲むのは決まってイタリアンロースト。
時々音を立てる食器に自然と頬が弛み、勘の鋭い恋人に寝た
ふりだと気付かれないようシーツに顔を埋める。
まあ照れ屋だし、
甘いものは菓子に限らず苦手だから
「おはようのキス」までは期待してなかったが




「ッ──熱っう!!!!」






…………これはいくらなんでも酷いんじゃないか?











【白い誘惑】










少し固めの髪の毛でも、
ひんやりすべすべの手のひらでもなく
どちらかといえばドロッと香ばしい熱々の「何か」をぶっか
けられてありがちな悲鳴と共に飛び起きた。本当に寝てたな
らまだしも、寝たフリなんかしてた分、神経は寝起きよりず
っと敏感。状況だけが理解出来ないまま転げてると



「おはよう、ディーノ」



犯人がコーヒーカップ片手にキレイな顔にサドを漂わせて笑
ってた…
冷えたシーツで体を冷やしつつ、ヒバリと枕の脇に出来た真
っ黒いシミを見比べれば自然にため息がもれた。



「おま…っいきなりそりゃ酷ぇだろ」
「だってかける、って言ったら避けるでしょ、君は」
「オレじゃなくたって避けるっつの」
「それとも、文字通り『叩き』起こして欲しかったのかな?」



──ヘンタイ

ひとつひとつ、言葉をなぞる薄い口唇
誰が、と出かかったものを飲み込んで見入ってしまうのは情
けない。相手が相手で関係が関係だけに、些細なことで反応
するのは男の性だがさすがに視線ひとつで反応すんのはマズ
イ。
慌てて視線をそらして別の方向に意識を…



「まぁいいや。それよりさ、身体中のコレ。見えるところに
つけるな、って言ったよね?」
「……………」
「学ランで隠れきるところならともかく、こんな所につけて。
体育だってあるって言ってるのに、君はよほど僕を怒らせ…
って、ちょっと聞いてるの?」



苛立ちを隠そうともしないヒバリの声は右から左に抜け
頭の中に浮かんだ言葉は『逆効果』
日本語ってスゲェなんて思ったのもほんの一瞬



「………ヒバリ」
「なに」
「…なんでそんな格好してんだ」
「さぁ?昨日ベッドで脱がした人がいるからじゃない」



ベッド脇に腰かけた華奢な身体を包むのはその体には明らかに
大きいワイシャツ一枚だけ。それでもそれ一枚で全部を隠せる
ほどの機能は当たり前ながら足りていない。ワイシャツにして
は長く、ワンピースにしては短い裾からはしなやかな白い足が
付け根近くから惜し気もなく晒され……って



「そういうことじゃない!しかもそれオレのシャツじゃねぇか!!
自分の服どうした!」
「僕にぐちゃぐちゃのドロドロに汚れた服着ろっていうの?」
「いや、そうじゃなくてシャツは別に構わねぇけどそんなもん
着てそんな…あぁもう!」



いやらしい格好で、なんて
大変おかんむりの状態でそんなこと言ったら最後取り返しのつ
かないことになるのは目に見えてる。



「変なディーノ」
「あ、足組むな!」
「なんで?」
「…ッ…なんでって…っ」
「僕をそんな目で見るヤツなんてここじゃキミ以外いないと思
うけど?」



色香を絡ませて覗きこむ上目遣い。ゆっくりと組む足を入れ替
える艶めかしさに喉が勝手に鳴る。
これが誘ってるんじゃないってんだから鬼だ…



「さて──じゃ僕はシャワー浴びてくるから、それまでに車出
す準備しておいてね?遅刻なんてことになったら咬み殺すから」



しかもここまでやっといて学校行くのかよ、オイ。
切実に訴える視線に気付いたのかドアの向こう側に消える寸前に
また口唇が。
今度は「ばぁか」
挑発的な視線にトドメを刺されて、戻ってきたら怒らせるの覚悟
で可愛がってやろうと誓った朝6時だった。







orzとしか言いようのないです、ハイ






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