アンバランス





雨が降っているようだった。
否、このたった数メートル四方の空間には生ぬるい水が降り注
いでいる。ただしそれを供給しているのは暗い色をした雨雲で
はなくこぶしほどの大きさしかないノズルだ。無数に、しかし
均等に並べられた小さな穴からは人肌ほどに暖められた人口の
雨が降り注いでいた。
ぬるま湯くらいの温度はこの季節浴びるにはいささか低すぎる
が、情事のあと火照った体にはちょうどいい。起伏の少ない体
をすべるたびに静かに温度を奪い、ゆるやかに興奮を冷まして
いく。同時にそれは肌にこびり付いた体液の名残り、例えば唾
液だったり例えば精液だったりといったものも流れに巻き込ん
で排水溝へと消えていくのだ。
金色の髪の隙間から脳天をたたく衝撃を感じながら眼を閉じる
と体をよじってすすり泣いたあの白いからだの柔らかさが浮か
んできた。
幻想の主は、今は寝室のベッドの上だ。
久しぶりの逢瀬というのもあって応接室にいたのをつれてきて、
あとはなし崩しで。ついさっき意識を飛ばすまで何度も抱き続
けて、眼が覚めたあとが正直に怖い。
世間的に見れば十分ディーノも若い方に違いないが、やはり雲
雀にはかなわないと思う。本人の言うとおり、雲雀の性的欲求
は淡白で非常にささやかなものだ。今日もベッドで眠る彼に襲
い掛かったのはディーノの方で、雲雀が失神するまで求めたの
もディーノだ。ただ自分と違い、雲雀はその欲求と体のもつ熱
の割合が極端に釣り合っていないように見える。
思えば普段からいやなものをいやだとはっきり主張する彼にと
って我慢というのは皆無だ。それは自分の感情に対しても同じ
であり、ディーノと恋仲になるまでもそのような感情の存在と
それを持つ自分を真っ向から否定していたようにも思える。
きっとそれと同じなのだ。白いものは端の方から透明度を増し
ていき、やがてはなにもなかったかのようにただのお湯へと戻
る、その瞬間が雲雀はたまらなく嫌いだと言った。15という
年齢は愛というものの普遍性を信じるには大人になりすぎてい
たし、普遍でないが故の確実さを悟るにはまだ子供過ぎるのだ
と、ディーノは思う。それは雲雀の罪ではなく、また自分の罪
ではない。嫌いな言葉ではあるが、一番適切なものを選ぶとし
たら、それは「仕方がない」というこのとなのだ。



「ディーノ」


棚に置いた備え付けのシャンプーに手を伸ばすか伸ばさないか
迷っていた時、名前を呼ばれた。思いのほか近くからだ。
寝室にいるとばかり思っていた幼いシルエットがすりガラスの
向こう側のあった。薄暗いシェードの明かりでも識別できるそ
の姿は肌色よりは白が多い。そなえつけのバスローブか、いい
や違う。
目隠しを施されたガラスの下のほうにはほっそりとした肌色が
二本。白い布におざなりに守られているのが見えた。
まだ、と焦れた声が聞こえてこちらもまだ、と返す。くっと息
を呑む気配の後でまた戸惑いのようなものが空気を濃くする。
ざあざあと人工的な雨が降り注ぐ中、どうしたと問うディーノ
の声は聞こえても、答える雲雀の声はディーノには届かない。
なにも言っていない、と思わないのは雲雀が自分に対してだけ
は雄弁であるのを知っているからだ。
あの削りだしたばかりの黒曜石のような荒削りな瞳は本人の預
かり知らぬところで多くを自分に向けて語り、問いかけている。
そうして経験の少ない子供はそれが大人を煽るということに気
づきもしない。


「恭弥、もうあがるからベッドで待ってろよ」


あがったら、またベッドに戻ってさっきと同じことをするから。
そういうことを言っているのに気づかない。この聡い子供がと
最初は驚いた。
今も影は動こうとせずにただガラスに張り付いたままだ。


「恭弥、戻って。じゃないと」


もしかして、戻らないとどうなるかも検討がつかないのではと
不安になる。せめて表情が見れたら、と思いつつもぴくりとも
動かない小さな体に結局ディーノが根負けをした。赤いしるし
のつけられたノブをぐっぐっと何度かまわすにつれて水量は絞
られてやがてぽたぽたとしずくをたらすだけになる。タイルの
上に薄く張った水溜りの上にしずくが零れてそれだけが静かな
この空間のBGMになった。
ふいに、ガラス一枚隔てた向こうで、恭弥が笑った気がした。
ぱたり、と最後の一滴がシャワーから落ち、白い手がドアに触
れた。音も無く開いた入り口に立った彼が今度こそ自分の前で
微笑むのをディーノは見た。
とても中学生とは思えないくらい、挑発的で妖艶な笑み。
子供のように無邪気な殺意の中に人を狂わす何かを恭弥は隠し
ている。
自分がこんな子供にはまる言い訳に使う気は毛頭ない。しかし
細かな動作に含まれた妙な艶は男の中の獣を狂わせる。それを
思い知らなかったのは恭弥が強かったからだろう。
どんなに恭弥に欲情しても、恭弥はそのための道化になど絶対
にならない。


「僕をおいて一人でシャワーだなんて良い趣味じゃないか」
「疲れてんだろうから寝かしておいてやったんだよ」
「お風呂にいれてくれたってよかったのに」


ほら、今だって。
早くしてとそんな風に手を伸ばすのがどれだけ男を煽るのか、
同じ男のくせにしるよしもない。
男を受け入れて、男でいくくせに下世話で品のない。彼いわ
く「風紀の乱れる」ようなことは口に出すことさえ許さない。


「お前って、潔癖なのか淫乱なのかどっちなわけ?」
「もしかしてやりすぎて脳細胞全滅した?」
「そんなこと言って、恭弥だってきっと同じ数死んでるぜ」
「僕はあなたよりはマシだよ。誰かまわず乗っかって種ばら撒
いているわけじゃないからね」
「オレに他の相手がいるって?」
「さあね」


前言撤回。
ドSの風紀委員長様はどうやら他人をいたぶる手段としてなら
オブラートに包んででもぶつけてみたいようだ。
赤い華が所々花開く体を抱きしめてそのまま腕の中にさらって
しまう。見た目以上に軽い体だ、かどわかすのは造作もない。
いつもは人見知りの猫みたいに大暴れして落とす直前まで大人
しくならない恭弥だが、珍しく今日は大人しく腕のなかに収ま
っていた。
シャワーは?無邪気に聞いてくる子供に結局デイーノは悪い大
人の手本を見せる羽目になる。



あとで。先にベッドいこうぜ



可愛こぶって首をかしげてねだるとつりあがった切れ長の瞳が
闇のなかでちらり煌いた。












END


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えろまで行かなかった!!なんだこの中途半端さは!!
やるならやるでやったとこまでかけってばよ!!

ほんとはシャワー室でふぇ●するひばり様が書きたかったの
おしゃぶり大好き!!でもあんなでかいおしゃぶりあったら
あごくたびれる(死んでくれ)