たった15年ぽっち。均寿命から計算しても4分の1にも満たないけ ど、今の今まで生きてきて、僕は自分が女だということを意識した ことがあまりない。 と、言うか全然ない。 動き易さを理由に学ランを着てたのも要素にあがるのか人より遅い 月ものが来た時さえ、あぁそういえばなんて始末。 「あ」 だから今回も、真っ先に浮かんだのは彼の顔だった。 【Angela】 マフィアのボスともなると、物事のスケールが一般人の常識とは 異なってくる。 値段を見ないで買い物するし、ホテルに泊まろうものなら借りる のはワンフロア。高級車をポンと一括で買ったりする。 彼の歳で誕生パーティなんか開くのもどうかと思うのに そのパーティがどこの王候貴族だという華やかさで最早言葉を 出すのも馬鹿馬鹿しい。 「ようヒバリ。今日はボスに何やるんだ?」 黒のスーツとすれ違う度、繰り返される決まり文句にいい加減 うんざりした。吐き出す吐息に怒りを混ぜこんでやればすぐに 察して肩をすくめて終わる分、マフィアはそこらの草食動物よ りかはマシなんだろうけど「同僚」はそうはいかないから困る。 (ついさっきも沢田とコブ二匹が同じようなことを聞いてきた) 「オレ個人じゃ、大したもの贈れないけどね。一応ボンゴレを 代表してって言うのもあるから」 誰もが「プレゼント」に過敏になっているのは多分、ノーテンキ なボス中毒者の部下連中のせいだ。 普段から二言目にはボス、の連中だけに誰もが気持ちの悪いくら い気合いが入ってる。その中でも重傷な一人が「ボスが一番喜ぶ 物」を準備したと豪語したのが口火になったらしい。 話は誰が一番ボスが喜ぶプレゼントをするかにまで発展して 「ディーノさん喜んでくれるかな」 「何?沢田までこんなイベントにのっかってるの?」 テメェ何呼び捨てにしてやがるんだコラァなんて気の立った猫 みたいなリアクションの方とそれをなだめる方はとりあえず視 線から外す。 はやくも名物となりつつあるやり取りにもさすがに慣れたのか。 年下のボスは困った顔で頭をかいた。 「いや、オレは別に。だって恭弥さんがいるなら勝ち目ないじ ゃないですか」 「ワオ、分かってるじゃない」 さすがはボンゴレの血を引くだけあるらしい。 一番の強敵は沢田かリボーンだと思ったけど、この様子なら杞 憂だったかもしれない。 咬み殺したくなるような規模の群れの中心に目を向けた。黒黒 黒と色彩の意味を疑いたくなるような景色の中で、あの金色は 目立つ。振り撒く笑顔は僕にだけにしか見せないと思っていた、 それそのもの。 何やってるの、って殴っても問題ないよねと勝手に思いもした けど今は許してあげる。 「恭弥さん、何をあげるんです?」 「ディーノが一番喜ぶものだよ」 「え?夜の乗馬券ッスか?」 「何言ってんの山本ォ!?」 「…死にたいらしいね」 今にその笑顔を僕が独り占めにしてあげるから 主役の挨拶と野太い声のハッピーバースディの合唱が終わると 早々とプレゼントタイムになった。さすがに部下が5000もいて、 その一人一人が用意したとなるとその量や種類も半端じゃない。 (中にはかなりかぶってるものもあったけど) ブランドのネクタイに始まり、アクセサリーや高級車、マンシ ョン。どれもプレゼントとしては常識外れのものばかりだけど 、ここまでで負けてる気はしない。 心配だった沢田やリボーンのプレゼントに喜びはしていたけど、 それも他の部下と比べて目を見張るような違いはない。 この分なら大丈夫 「お、最後は恭弥か」 プレゼント贈呈後も取り巻いて離れようとしない黒い塊がディ ーノのその言葉でパクッと二つに割れて道をつくる。 こういう分をわきまえているのも彼の部下の優秀なところだと 思う。 が、逆の言い方をすれば彼らから今回一番の強敵にあげられて るのは僕だということだ。中には手ぶらな僕を見て明らかに嬉 しそうな顔をしたヤツまでいる。 「ずいぶん色々もらったね」 「ホントだな。大事に使わせてもらうよ」 「僕からのなんかいらないんじゃないの?」 「バッ…!そんなこと」 「冗談だよ」 そう、冗談だ。 こればっかりはきちんともらってもらわないと僕だって困る。 もちろんそんなこと露ほども知らないディーノは本気で焦っ ておどかすなよなんて言った。 これだけもらってまだ欲しいのか、とイタリア人に聞くのは 野暮なんだろう。 「何だと思う?僕のプレゼント」 途端に蜂蜜色の瞳が丸まる。 手ぶらというのに気付いてはいたけどこう来るとは思ってな かったらしい。 人の輪の端のほうで山本がやっぱり乗馬券かなんて呟くのが 聞こえて後で咬み殺そうと決めたけど、そんな言葉も届かな いみたいで。ディーノは考えたままだ。 「分からない?」 「あぁ」 「仕方ないね」 このまま放っておくのもいいけれど、二人きりならいざ知ら ずこんな群れの真ん中でそれはご免だ。 本気で 抱えこんで考える体勢のディーノの腕を、手をひく。一瞬戸 惑ったように跳ねたのを気付かないことにして下腹部に持っ てこさせて自分の手を重ねた。 まさか、なんてリボーンの声が遠くに聞こえた。 ディーノが僕の顔と手の当てられてる場所を交互に見る。 「気付かないなんて、父親失格なんじゃない?」 見上げた先のその顔は、この世にこれを上回るものはないだ ろう、ってくらい 見事なマヌケ面だった。 ■□■ 「疲れた…」 自分の体を重く感じるのは工口保健医に桜の病気をかけられた 時以来だ。 けれど、今のこれは肉体疲労というよりは精神的なものだろう。 リボーンがくれたお気に入りの黒のジャケットを脱いで近くの 椅子に放る。そのまま綺麗にベッドメイクされたシーツの上に 倒れ込みたい。ノリの効いた新しいシーツの匂いだけでも、疲 れが半分は回復する気がするのに。 「こら、体に障るだろ」 これだ。 ベッドに投げ出した体は柔らかいスプリングより先に跳ね馬を 描いた腕に受け止められる。 そのまま優しく横たわせてもらえるのかと思えば、ついさっき までもそうしてきたのに ふわりと 横抱きにされ、代わりに腰を落としたディーノの膝の上へ。 当たり前のように降りそそぐキスの雨に顔中を覆われる。 「ちょっと」 「いいから」 「何がいいのさ」 「んー」 「あなた、聞いてる?」 「あ、あなたって響き良いな」 「聞けってば種馬」 「あでっ」 しょう懲りもなく続くキスのどしゃ降りも短い導火線の前には 無力だ。会話の合間にいちいちまざるちゅ、にいい加減ムカつ いて顎をカチあげた。 トンファーがないとは言え、最強と恐れられた僕だ。さすがに 効いたみたいで痛てぇとか言いながら擦っていた。 もちろん、それぐらいで弛みきった顔は治らない。 「喜ぶとは思ってたけど、そんなに嬉しい?」 僕のプレゼントの後、パーティの主役は完全に入れ替わった。 そりゃ、後継ぎが出来たとなれば騒ぐのは当たり前だろうけど。 あらかじめ準備されてたのかと思うような手際の良さだった。 部下はディーノを胴上げ始めるし、どこからともなくやってき たソファをディーノの席に並べられて有無を言わさず座らせら れるし祝後継ぎ誕生の垂れ幕が出てきた時には完全にひいた。 「恭弥は嬉しくねぇの?」 「あなた達のせいで完全にタイミング逃した」 「そっか、ごめんな」 くしゃりと髪を掻き混ぜてディーノが僕を見る。薄い色の中に 自分を見つけて今、見つめ合ってることに気づいた。 珍しくディーノの方が先に眉を寄せて視線をそらした。 照れてるんだろうけど、胸もとに擦り寄ってくる表情は馬鹿み たいに幸せそうだ。 「触ってもいいか?」 「自分の子供じゃない」 今更何言ってるのと思ったのに、ディーノはそれだけじゃな くてなんて馬鹿を言って、いつもの調子で笑って、口唇を重 ねた。 「早く親子三人で歩きてぇなぁ、くそー」 「もうプラス5000、いるじゃないあなたは」 「あー…すげぇことになりそうだな」 「別に。今に始まったことじゃないよ」 黒いジャケットにスラックスを履いて ネクタイをして懐に銃を持って こんな体に生まれたのは煩わしいだけだと思ったのに 早く、早く生まれておいで 群れるのは嫌いだけど、目をつむってあげる。 ディーノの言う通り、早く三人で一緒に歩こうよ。 翌日、マタニティドレスとベビー用品でキャバッローネ邸は 溢れたとかなんとか END back |